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遊びじゃないの(5) - 読売新聞

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 遊びじゃないの(1)(2)(3)(4)

 2019年11月。私たちは千葉県松戸市の体育館にいた。

 「関東ドッジボールリーグ秋季リーグ戦・女子の部」。8チーム総当たりで戦う予選リーグ初戦を控え、私は自分たちへの期待と同時に重圧を感じていた。

 ドッジボール界のレジェンド・吉田隼也さんの指導で私たちは確かに成長している。格上の大人のチームに勝つという目標もあと少しで手が届く所にあるはずだ。だけど……

 「やっぱり強そう」。いざ対戦相手を前にすると急に弱気の虫が心の中で顔をのぞかせた。

 初戦の相手は早稲田大学の強豪ドッジボールサークル「炎士」の女子チーム。過去、一度も勝てたことがない相手だ。

 そもそもこの2年、私たちは負け続けてきた。負けてばかりいると、勝ち方を忘れる。最初から相手にのまれている感じで、途中までいいペースで来ても、いつの間にか相手に流れを持っていかれる。負け癖って多分、こういうことを言う。

 大会前、吉田さんは私たちにこんなアドバイスをくれた。

 〈1〉ドッジボールはシンプルなスポーツ。わずかなミスが命取りになる。冷静に戦うこと
 〈2〉試合中にお互いの内野の人数確認を怠らないこと
 〈3〉誇りを持って戦うこと

 かくして5分間の戦いは幕を開けた。

 滑り出しは上々だった。

 特に()え渡っていたのはエリカとミナのアタッカーコンビ。アイコンタクトやさりげないジェスチャーで互いの考えを瞬時に読み取ってパスを回す。隙を見つけると、内野のミナからパスを受けた私(ナミ)とエリカが外野からクイックモーションで強烈なボールを相手にお見舞いした。

 ペースを握り、試合も後半に突入。私は今までにないチームの一体感を感じていた。

 だけど、勝負はこれから。「焦っちゃだめ」と自分に言い聞かせ、内野の数を確認する。

 よし。勝ってる。私は司令塔のミナにアイコンタクトを送った。ここからは確実に一本一本。素早くパスを回しながら、確率の高いアタックを心がける。冷静に時間を使うのも戦術だ。

 横目でタイムボードを見る。残り20秒。5―4でうちのリード。ちょっと興奮したけど、すぐひっくり返る点差だ。相手の動きを見て冷静に。

 残り10秒、9、8……。もどかしい時間が過ぎていき……。

 「ピッ、ピッ、ピーーーッ」

 2年ぶりに聞く勝利の笛に、私はその場に呆然(ぼうぜん)とした表情で立ち尽くした。もしかして喜び方も忘れてる?

 「ナミ先輩!!」

 ドン、と仲間に抱きつかれ、我に返った。じんわりぼやけた視界の先にみんなの笑顔が広がっていた。

 その日の私たちの成績は予選リーグ「1勝」6敗。5~8位決定リーグは3戦全敗で8チーム中8位。つまりは1勝のあと怒濤(どとう)の9連敗を喫したわけで、試合後は勝利の喜びよりも反省とか課題を口にするメンバーの方が多かったかも。

 だけど、悔しさが生まれたのは、もっと強くなりたいと思っているから。あの1勝は私たちに自信と夢、そして誇りを与えてくれた。

 昭和女子ドッジボール部がいつか強豪と呼ばれるようになるように。そして大好きな競技ドッジボールの輪が全国の中学・高校に広がるように。

 今日も私たちは気合を入れてコートに立つのだ。

 どうせやるなら大人に勝つ!!(高校生の登場人物は全て仮名です・完)(写真・文 西田真奈美)

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