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男だらけの舞台で(3) - 読売新聞

 大物ルーキー・白田の改革でまとまりを取り戻した演劇部。今年の演目も決まり、年に1度の大会に向けて歩み出した。演目は、鳥沢先生オリジナルのゾンビもの。先生が俺らのキャラクターをイメージして書き上げた力作だ。部長の俺、東山は新生・演劇部に大きな可能性を感じていた。

▽過去の連載
 男だらけの舞台で(1)(2)

 新入部員・白田によるペレストロイカ(立て直し)で再スタートを切った我らが演劇部。白田の次に新しい風を吹き込んだのはコーチの鳥沢先生だった。

 それは去年の夏、10月の地区大会に向け、演目を話し合う会議でのこと。

 「今年はこれでいきたい」

 鳥沢先生は部員たちに1冊ずつ真新しい台本を配った。

 タイトルは「ケチャップ・オブ・ザ・デッド」――日本語にすれば、死者のケチャップ。名前だけ見れば、なんのこっちゃという感じだが、先生が長年構想を温めてきたゾンビもののオリジナル台本だという。

 筋書きはこうだ。

 映画サークルに所属する3人組の大学生が、ホラー映画を撮影しに訪れた山中で本物のゾンビに遭遇する。最初はおびえた3人だが、ゾンビはなぜか撮影に協力的。次第に恐怖心がまひした3人は、撮影の都合に合わせてゾンビを縛ったり殴ったりしてしまう。そして、撮影が進む中で判明したゾンビの悲しい「過去」――。

 男子校らしい勢いがあるギャグに、見る人の心にぐいぐい迫る強いメッセージ性。中学から演劇を続けてきた俺たちは、台本を読んですぐにその面白さを理解した。

 高校演劇は、秋の地区大会、県大会を経て、翌年1月の関東大会、夏の全国大会へと進む。全国上位に入れば東京の国立劇場で演じる資格も得られ、その戦いは最長で1年ほどに及ぶ。

 「この台本なら、上を目指せるかも」。みんなの目に輝きが戻ってきた。

 配役はすぐ決まった。実はこの台本、もとからあった構想をベースに、先生が僕らのキャラクターをイメージしながら書き上げる「当て書き」の手法で作られている。ゾンビ役は手足が長い中井、大学生3人組は俺と南、そして西野だった。

 稽古が始まって気づいたのは、俺たちは「できる子」だったってこと。

 どん底状態が1年続いたとはいえ、中学時代はがっつり練習していたし、何よりもみな演劇を愛している。うまくいかなかったときも、それぞれが自分なりに演技について学び、考え続けてきたのだ。

 南には、アドリブのセンスがあり、中井にはいるだけで観客の心を引きつける華があった。舞台監督の北出には舞台全体を見る視野の広さがあり、新入生ながら演出を務めるド素人の白田をさりげなくサポートしてくれた。

 ただ、ケンカでできた溝はそう簡単に埋まるわけではない。稽古が始まっても、大学生役の西野だけは部活になかなか姿を見せなかった。

 「雰囲気は最悪だし、ここで演技をやっても意味はない」。西野は当時、そう思っていたという。部員から「台本が決まった」と伝えられても、どうしても稽古に参加する気は起きなかった。

 だけど、俺たちは待った。「ケチャップ・オブ・ザ・デッド」は当て書きで作られた世界に一つだけの台本。ヤツの役はヤツにしか務まらない。

 西野が稽古に顔を出したのは地区大会を1か月後に控えた9月のこと。

 「やっぱりこれだ」。セリフあわせで満足そうにつぶやく西野を見て、俺は思った。

 そう。俺たちは「できる子」。一つになれば強い。

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June 03, 2020 at 08:00AM
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