米国イエローストーン国立公園は、地質学のワンダーランドだ。64万年前の超巨大噴火でできたカルデラを中心に広がる8991平方キロの公園は、そのあちこちで間欠泉が噴き出している。これらはすべて、地下に溜まっているマグマや高温の流体とかかわりがある。(参考記事:「イエローストーンに潜む巨大マグマ」)
このカルデラの北西に位置する東京23区よりも広いエリアが20年以上にわたり、謎の上下動を繰り返している。この「呼吸」の原因について、新たな仮説が学術誌「Journal of Geophysical Research: Solid Earth」に発表された。(参考記事:「イエローストーン 自然保護の実験場」)
謎の「呼吸」エリアは、500以上の熱水泉や間欠泉が存在する「ノリス・ガイザー・ベイスン」を中心とした一帯。不規則だが年間10センチメートル前後、地表が上下に動く。「非常に長い間、ノリス地域を中心に地形が変化してきたのでしょう」と、今回の共著者の一人、米地質調査所カスケード火山観測所のダニエル・ズリシン氏は語る。
今回、研究者らは、数十年分の人工衛星データやGPSデータを用い、地中で起きていることをモデル化しようと試みた。そこからわかったのは、1990年代後半に大量のマグマがノリスの地下に進入したこと。溜まった大量のマグマから一部の流体が岩石の隙間を上昇、地中の圧力が高まり、地表面が上昇した。やがて流体が別の場所へ抜けてゆくと、地表は沈降する。マグマ由来の流体は現在、地下1500メートルほどの比較的地表に近い場所にあると見られる。
誤解のないように言えば、今回の論文は、64万年前にイエローストーンのカルデラを形成したスーパーボルケーノ(超巨大火山)が再噴火すると言っているわけではない。
この地域には、世界でもっとも高く噴き出す間欠泉「スチームボート・ガイザー」があり、2018年3月以来、記録的なペースで噴出を続けている。今回の研究成果はその原因を説明できる可能性がある。また、ノリスの地下で起きている変動によって、水蒸気爆発が起きる可能性がわずかに高まっていることも考えられるという。(参考記事:「超巨大火山のマグマ、休眠から数十年で巨大噴火も」)
研究者たちの一致した意見は、大量のマグマが貫入し、その際に漏れ出した流体が原因となって地表の上昇や下降が起きている可能性が高いということだ。
「ノリス・ガイザー・ベイスンがどれほど変化している場所なのか、私たちはようやくそれを理解し始めたところです」と、今回の研究に関わっていない米地質調査所イエローストーン火山観測所のマイケル・ポーランド氏は語る。
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