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響け なまはげ太鼓(6) - 読売新聞

 面や動きが自由なはずのなまはげ太鼓だが、当時2年生のユウキは経験不足で余裕がなかった。しかし、演奏会を重ねるうち、夏頃には殻を破り、観客にバチを向けたり声をかけたりできるように。全国高校総合文化祭の出場にも貢献した。

▽過去の連載
 響け なまはげ太鼓(1)(2)(3)(4)(5)

 全国高校総合文化祭(総文祭)への出場を決めたユウキに、転機が訪れた。

 母親が小料理屋を開くため男鹿市に引っ越すことになり、11月にあいさつ回りをしたとき。男鹿海洋でなまはげ太鼓をやっていることを知った人から「一緒になまはげをやらねえか」と声をかけられた。

 大みそかの「なまはげ行事」への誘いだ。「泣ぐ子はいねぇがー」と家々を回る、あの伝統行事だ。秋田市で暮らしていたユウキは体験したことがない。もちろん「やります!!」と即答した。

 12月31日午後6時過ぎ。ユウキは愛用の面をかぶり、もう一体のなまはげと大きく()えながら夜道を歩き始めた。家々では、子どもたちに「ちゃんと勉強してるか!」「山さ連れてくど!」と脅かして回った。

 コンビを組んだベテランなまはげの迫力はすごかった。腹の底から響かせる声は野太く、動きも大きい。先輩たちもスゴイと思ったが“本物”は次元が違った。

 3時間ほど回り、拠点の公民館に戻ると、「来年も頼むな」と言われ、幸福感に浸ったまま年を越した。

 ユウキは、ベテランなまはげの(すご)みに少しでも近づき、総文祭では、全国から集まる観客を震え上がらせたいと思った。

 だが、新型コロナウイルスのせいで、撮影した動画を審査してもらうだけになってしまった。

 なまはげ太鼓の醍醐(だいご)味は、ライブ感にある。

 太鼓の音やなまはげの声が体の芯を貫くように響き、縦横無尽の動きにおののく。見る者はその場にいるから感動する。見せる方も反応がダイレクトに伝わるからこそ臨機応変に動けるのだ。

 それなのに演奏時に目の前にあるのは無機質なカメラだけ。拍子抜けはしたが、「やれるだけありがたい」とも思った。本来なら毎週のようにさまざまなイベントに出かけるのだが、それも全滅していたからだ。

 撮影場所の一つは、なまはげが999段の石段を造ったという伝説がある赤神神社。なまはげゆかりの場所での演奏にテンションが上がったが、「やっぱり人前で演奏したい」との思いは消えなかった。

 高校生活は3年間しかないのに、最後の1年は満足に部活に打ち込めなかった。そのことが、ほかの部員の多くが大学進学などで地元を離れるなか、男鹿で就職することにつながった。

 実は、1年生のときに部活とは別に、地域のなまはげ太鼓愛好会に所属している。仕事をしながら、この愛好会で活動しようと思ったのだ。

 就職先は、なまはげ太鼓に理解があるという建設会社。引っ越しのあいさつ回りで、「なまはげをやらねえか」と誘ってくれた人が勤めている。その人から、演奏会があれば優先的に休みを取らせてもらえると聞いたことが決め手だった。

 10月にあった面接で「なまはげ太鼓を続けたい」と伝えると、会社のえらい人は「どんどんやって」とほほえんでくれた。

 進学先も就職先も、「なまはげ太鼓をやる」という理由で決めてきた。中3の夏、たまたま、なまはげ太鼓に出会ったことがすべての始まりだった。ユウキは、あの夏、ショッピングセンターに遊びにいって良かったと思っている。(完)(写真・文 児玉森生)

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