直径およそ950kmの準惑星ケレス(英語:Ceres)は、火星と木星の間にある小惑星帯における最大の天体です。その表面では炭酸ナトリウムなどの塩でできた明るい領域(スポット、光点)が幾つか見つかっており、過去に存在していた地下の海から低温火山活動によって地表にもたらされた塩水に由来するのではないかと考えられてきました。 今回、Nature Astronomyなどでケレスに関する一連の研究成果が発表されました。2015年から2018年にかけてケレスの観測を行ったNASAの探査機「ドーン(英語:Dawn)」による重力測定のデータから、直径約92kmの「オッカトル・クレーター(英語:Occator Crater)」の地下およそ25マイル(約40km)には今も幅数百マイル(おおむね数百~1000km弱)に渡って塩水が溜まっていることが判明したといいます。一部の研究グループによると、この塩水が今も地表へ湧き上がっている可能性があるようです。
■ケレス以外の氷に富んだ天体でも同様の活動が生じている可能性
今から約2200万年前の衝突で形成されたと考えられているオッカトル・クレーターの中央には、「ケレアリア・ファキュラ(Cerealia Facula)」と呼ばれるスポットが存在しています。発表によると、ケレアリア・ファキュラの塩は今から約750万年前と約200万年前に地表へと湧き上がってきた塩水に由来するとされています。 Andreas Nathues氏(MPS:マックス・プランク太陽系研究所)は、「注目すべきはオッカトル・クレーターにおける活動の時期です」と語ります。Carol Raymond氏(ドーンの主任研究員)によると、ケレアリア・ファキュラの塩の大部分はクレーター形成時の熱で溶けた地下の浅いところからもたらされたものの、その熱は衝突から数百万年程度で失われたとみられています。Raymond氏は、クレーターが形成された際の衝撃で地殻に亀裂が生じ、地下の塩水が表面へと湧き上がる経路ができた可能性を指摘しています。 この亀裂を通して、今も塩水が地表へと湧き上がっているかもしれません。Nathues氏らはドーンのミッション中に、オッカトル・クレーターを断続的に覆う薄いもやの兆候を見つけています。また、ドーンがケレスに到着する前の2014年には、欧州宇宙機関(ESA)の「ハーシェル」宇宙天文台によってケレスから水(水蒸気)が噴出していることが明らかになっています。 Nico Schmedemann氏(ミュンスター大学)は、200万年前に再開したケレアリア・ファキュラにおける活動が現在も続いている可能性に言及しています。ただ、時にはかなり爆発的だったとされる初期の低温火山活動と比べて現在の活動は落ち着いており、水はおもに昇華によって失われているとみられています。Nathues氏は「太陽系で知られているものとしては独特な低温火山活動です」と語ります。 木星の衛星エウロパ、土星の衛星エンケラドゥス、海王星の衛星トリトンといった天体では、惑星との潮汐作用による内部の加熱(潮汐加熱)を熱源とした低温火山活動によって地下から水などの物質が噴出しているとみられています。今回、小惑星帯を公転するケレスが少なくとも比較的最近まで地質活動をしていたことが明らかになったことで、氷に富んだ天体では潮汐加熱が起きなくても同様の活動が生じている可能性が示されました。 「依然として低温火山活動が続いていると予想しています」とするNathues氏は、「ケレスにおけるごく最近の地質活動の証拠は、小天体は地質学的に活発ではないとする一般的な認識を覆し、惑星科学に新たな方向性をもたらしました」とコメントしています。
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August 12, 2020 at 09:31PM
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