“PLANET OF THE APES”、すなわち『猿の惑星』(1968年)めいたタイトルが目を引くサメ映画といえば、そう、『PLANET OF THE SHARKS 鮫の惑星』(2016年)だ。国内盤はご丁寧にも、タイトルロゴまで『猿の惑星』に寄せているという徹底ぶりだが、内容的にはどちらかというと『ウォーターワールド』(1995年)を彷彿とさせる舞台設定だから困りもの。とはいえ、基本的にはきっちりオリジナル作品なので、そこは安心していただきたい。というわけで今回は、この『PLANET OF THE SHARKS 鮫の惑星』を紹介していこう。
もし世界がサメに支配されていたら? を強引に描く!
時は近未来、地球温暖化の影響により、ついにあらゆる陸地が海の底へと沈んでしまっていた。これまで自然生態系の保ってきたバランスが脆くも崩れ去った今、人類に代わって食物連鎖の頂点に立つ生物は、サメであった。地表の水没から辛くも生き残った人類は、海面に粗末な集落を築き上げると、渇きと飢え、そして上位捕食者であるサメの脅威に怯えながら、日々を過ごしていた……。
そんな中、人口72人の小規模海上集落“サルベイション”が、サメの奇襲を受けて破壊されるという事件が起こる。水温の上昇により海中の資源さえ涸渇しつつある現在、飢餓に苦しむサメが、本格的に人類を“獲物”として狙い始めたのだ。
この状況を打開するべく、かねてより研究を進めていた“ベストロン海洋研究所”の科学者たちは、「二酸化炭素を消す装置をロケットで打ち上げることで、水位を下げ、人類に陸地を取り戻す」作戦に乗り出す。
だが、彼らの行く手を阻むかのように現れたのは、電場を操って様々な種のサメを操るという特殊能力を習得した統率者“母ザメ”であった……。
監督はアサイラム作品に欠かせないあの人! 主演俳優は中堅未満!!
監督はマーク・アトキンス。前にも触れたかもしれないが、あの意外な良作サメ映画『ビーチ・シャーク』(2011年)や、その支離滅裂な展開が話題を呼んだ多頭系サメ映画『シックスヘッド・ジョーズ』(2018年)で知られる人物だ。サメ映画以外でも、例の『ベン・ハー 終わりなき伝説』(2016年)や『世界侵略:ワシントン決戦』(2018年)、そして『ロード・オブ・モンスターズ』(2019年)と、このコラムシリーズで取り上げたアサイラム作品を複数本担当している。いわば、アサイラム作品を語る上で避けては通れない監督の一人ではあるだろう。
主演はブランドン・オーレ。脇役として、ではあるが『第9地区』(2009年)や『エリジウム』(2013年)、『チャッピー』(2015年)といったニール・ブロムカンプの監督作に一通り出演している俳優だ。しかし、そのニール・ブロムカンプ作品といい本作といい、よくよく荒廃した環境に縁のある人物のようである。また、彼は件の『シックスヘッド・ジョーズ』にも出演している。
ポスト・アポカリプス系ながら、まるで緊張感を感じさせない作風!
というわけで本作だが、やれ“サメが君臨する地球”だの“CO2浄化装置”だの、はたまた“サメの電気を使ってロケットを飛ばす”だの、とにかく設定面でぶっ飛んだ作品だ。ポスト・アポカリプス系の諸要素を数多く内包しながら、まるで緊張感を感じさせない作風、しかし登場人物は皆至って真面目で、上述の突拍子もない設定をゴリ押ししてくる。そのちぐはぐさがかえって面白く、荒唐無稽な物語ながら鑑賞中はそう不自然にも思わせない力強さこそが、本作の魅力の一つだ。
ただし、パワフルな脚本に対して絵的には少々一本調子で、インパクトのあるシーンに乏しい。「サメが一つの海上集落を消滅させる」「サメがオートジャイロに飛びついて墜落させる」などのトンデモ系サメ映画らしい山場もあるにはあるが、それもどこか既存のアサイラム作品の焼き直しめいていて、目新しさを感じないのはネックだろう。それどころかサメの襲撃シーンにおいて、“登場人物の一人が画面外をひたすら銛で突き続けるショット”まで出てくる始末。“群れを成す無数の子ザメ”や、“青白く発光する巨大な母ザメ”などの存在には期待させられただけに、これはやや惜しかった点だ。
全体的にはまずまず見られる部類のサメ映画ではないだろうか。「最高ではないが、最悪でもない」「良作には至らないが、駄作とも言い難い」……そのような塩梅の一本かと思われる。もっとも、もしあなたがまっとうな名作とやらをご所望ならば、サメよりサルを選んだ方が無難だろう。
文:知的風ハット
『PLANET OF THE SHARKS 鮫の惑星』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年8月放送
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August 16, 2020 at 04:12PM
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