飲食業界では、新規出店の約3割強が1年以内に閉店、5年で約8割が消えていくといわれる。その言葉を裏付けるように、2019年の飲食店の倒産件数は過去最多を更新するだろうというデータもある。
この数字を見ると、明らかに逆風が吹いているように思える飲食業界だが、今後、軽減税率の影響はどのくらい受けるのか? 五輪イヤーである2020年も倒産ラッシュが続くのか、それとも五輪特需となるのか? 現在でも売り上げを伸ばし、成功を手にしている飲食店とは?
『飲食業界 成功する店 失敗する店 なぜ新規出店の8割は5年で消えてしまうのか?』(すばる舎)を出版し、青山、千駄ヶ谷、つくばなどで和食居酒屋を経営、プロデュース店を合わせると200店舗以上を手がけた重野和稔さんに、逆風の飲食業界でも成功する店の条件を聞いた。
逆風の飲食業界で生き残る
飲食店プロデューサーの重野さんには、飲食店からの依頼が絶えない。和食、イタリアン、中華、焼き鳥、うどん、そば、カフェなど、手がけた店舗は北海道から沖縄まで日本全国、海外を含めると200を超えるという。
「おかげさまで直営店の7割は10年以上、プロデュースを依頼いただいた飲食店の8割が5年以上の繁盛店となっています。しかし、飲食業界全体を見ると、新たに出店した飲食店の約3割強が1年以内、約8割が5年で閉店の憂き目に遭っているというのが現実です」(重野氏)
このような飲食業界への逆風の理由は、さまざまある。若年層を中心にした飲酒量の低下、外食にお金を使わない個人や家庭の増加という、生活者の消費動向の変化に加え、首都圏を中心に賃料が上昇、さらには小麦粉など加工品を中心とする原材料の価格上昇のダブルパンチ。
「たとえば、2020年1月11日に『うなぎ 今丁』(大田区大森)が閉店しました。新鮮な国産のうなぎをサラリーマンに気軽に食べてほしいという店主の想いで、採算度外視の営業を続けていましたが、国産うなぎの高騰を受け、2019年にうな丼(並)1550円を泣く泣く1750円に値上げ。
原価が1500円なので一杯250円の利益しか出ないという話でした。しかしこれ以上値上げしたら店を続ける意味がないと、ついに17年の歴史に幕を下ろしました。
毎朝さばく新鮮なうなぎを炭火でパリッと焼き上げ、ふわふわの身の食感とさっぱりとほどよい甘味のタレのバランスは最高で、本当においしかった。 またひとつ名店がなくなり、本当に寂しい限りです」(重野氏)
さらに追い打ちをかけているのが人材不足だ。多忙な飲食店を敬遠してアルバイトが来ない、時間をかけた修行が必要な料理人になろうという人が少ないため、募集にかける費用がかさんでいる。人を集めるために給与水準や時給が高くなり、働き方改革で、より多くのスタッフが必要となっている。
「この数年は人材不足による閉店が特に顕著です。新しくスタッフを入れても、十分な教育を受けられないまま、いきなり多くの仕事をやらなければならないため、すぐに辞めてしまいます。そうすると人手不足のため、接客サービスや料理のクオリティ、提供スピードの低下などが起こり、客離れが進むのです」(重野氏)
そんな状況に店長や料理長も心身ともに摩耗し、辞めてしまうという負のスパイラルが、多くの店で起きている。
「もちろん人手不足を解決しているお店もあります。しかし、ここ数年で『人を紹介してくれ』『派遣してくれ』という依頼が一気に増えました。また、新店をオープンするのにスタッフが見つからず、オープンが3カ月延びた店もあります。人材不足は基本的に解決が困難なため、3人必要なオペレーションを1〜2人で回せるように変えるとか、手のかからないメニューを増やすなど、工夫するしかありません」(重野氏)
飲食店ならではのサービスを工夫する
2019年(1月~11月)の飲食店事業者の倒産は668件で(帝国データバンク調べ)、過去最多の2017年(707件)を上回るのが確実といわれている。
「確かにその通りだと思います。最近は新年会も少なく1月の売上は見込めないので、12月末まで営業して閉店するお店は多いでしょう。消費税率が10%に引き上げられ、消費意欲が低下していることもありますが、軽減税率の導入の影響が大きいと思っています。店内で食事すると10%、テイクアウトが8%ということは、ますます飲食店離れが進み、年々広がる『中食』のマーケットがさらに拡大していくと考えています」(重野氏)
小遣いの限られているサラリーマンにとって2%の差は大きい。焼き鳥をコンビニで買って、缶ビールとともに家で中食する人が増え、「テイクアウト専門店をやったほうがいいのでは」と嘆く焼き鳥店主もいるという。飲食店に打ち手はないのだろうか。
「飲食店が2%の軽減税率に対抗するには、家では味わえない付加価値をどう付けていくか工夫しなければなりません。非日常の空間の演出、接客サービスの充実です。たとえば、その場で食べていただくための、テイクアウトではできない演出。最後に熱々のソースをジューッとかけてみたり、その場で料理をさばいてみたりするなど、テーブルで行う一工程のライブ感などです。『家で食べるのと同じだ』となると、お客様の足は店に向かいません。ここで新しいサービスを生み出し、差別化を図れる飲食店はこれから生き残っていくと思います」(重野氏)
東京オリンピック、パラリンピックの効果は?
ただ、暗い話ばかりとはいえない。2020年に開催される東京オリンピック、パラリンピックは追い風となるからだ。
「今回のオリンピックは、飲食店にとっても間違いなく“特需”になるでしょう。特に競技が行われる会場周辺、宿泊先となるホテル周辺はチャンスです。ただし、現在すでに外国人観光客を見越しての英語対策などをしている店とそうでない店とでは、明暗が分かれるでしょう」(重野氏)
そうはいっても、オリンピック&パラリンピックの期間は約2カ月。その「五輪特需」が終わったあとはどうなるのだろうか。
「まさに“特需”ですから、外国人観光客が引き上げたあとは売り上げも落ち着くでしょう。ただし、今回のオリンピックで来日し、日本を気に入った外国人がリピーターになったり、日本での経験を配信したSNSを見て『自分も行ってみよう』と思う外国人が来日したりするなど、ある程度の“余波”は2021年の後半くらいまで続くでしょう。過去のオリンピックを見ても、だいたいそうした傾向にあります」(重野氏)
こうした“特需”と“余波”に浮かれるだけでは、息の長い飲食店経営はできないだろう。オリンピック特需を、どんなサービスやどんなメニューが客に求められているのかを再確認する場とし、新たな価値を提供し続ける店が、成功できる飲食店ではないだろうか。
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February 07, 2020 at 04:00AM
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増税、人手不足、原料高騰…逆風の飲食業界で、2020年に成功する店・失敗する店とは? | ビジネスジャーナル - Business Journal
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